お母さんになりたかった私が、本当の自分になるまで(前編)

働く女性にとって、その壁は出産・育児だけとは限りません。自分自身のキャリア観の変化、子育てをしながらキャリアを積み上げる難しさ、そして、母親という役割と自分自身の境界線をどう持つか。ずっとお母さんになりたかったと話す女性に、そのキャリア観の変化と人生の切り開き方を聞きました。

お母さんになりたかった私が、本当の自分になるまで(前編)

最終更新日:
2026-02-04
公開日:
2026-02-04

いつ産むか。どう育てるか。働くかどうか。

女性にとって、子どもを持つことは、「持つかどうか」というひとつの決断ではありません。この連載では、子どもを持つ女性に、妊娠・出産によりキャリア、人生、やりたいこと、パートナーとの関係について何が変化したのか、どう決断したのかを描きます。

vol.4に登場いただくのは、現在IT企業で働く武田由美さん。2人の子どもを持つキャリアウーマンです。はじめは「お母さんになりたかった」ため、キャリアの優先順位が低かったという武田さん。どのようにキャリアに意義を見出し、自分らしく働く現在の姿に至ったのでしょうか。話を聞きました。

「いつか結婚してお母さんに」と無理のないキャリアを選んでいた

──現在では2人の子どもを持ち、フルタイムでバリバリ働いている武田さん。もともと持っていた家庭観はどのようなものでしたか?

小さな頃から「お母さん」になるのに憧れていました。自分自身が末っ子であることもあり、自分より年下の誰かの世話をしてみたかったのかもしれません。年下の従兄弟をとても可愛がった記憶もあります。大人になってからもその思いは変わらず。子どもが好きで、「いつか結婚してお母さんになる」というイメージを強く持っていました。

高校を卒業して、音楽の専門学校に進学しましたが、これもキャリアのためというよりは「音楽が好きだから」という理由です。いつか素敵な誰かと出会って、結婚したら仕事を辞めて......という自分の人生に対するイメージは、就職してからも変わることがありませんでした。

──専門学校を卒業後は、どのような仕事を?

音楽の専門学校を卒業すると、アーティストとファンの皆さんを繋げる役割に惹かれ、ファンクラブの運営会社に就職しました。その会社では、ファンクラブの会員の方からのメールに対応する仕事などを行っていました。

寿退社を宣言したら、結婚が破談に。派遣社員としての再スタート

──ファンクラブの運営会社での仕事はいかがでしたか?

とても楽しかったです。さまざまなアーティストの舞台裏を見ながら自分のペースで働くことができました。しかし、「いつかはお母さんに」という夢があったので、やはりその職場で長く働くイメージは持っていませんでした。

この時、私のキャリアに最初の転機が訪れました。その時お付き合いしていた方と結婚することになったのです。今思えば、その人からプロポーズを受けたのではなく、相手のご両親により結婚の段取りが進んでいたことにもう少し注意していればよかったのですが.......。

会社に「寿退社をします!」と宣言した後に、なんとフラれてしまったのです。恋愛体質の私は、失恋したことにも、お母さんになる夢の第一歩が踏み出せなくなったことにも大きなショックを受けてしまいました。心のどこかで復縁を願う気持ちから、寿退社の宣言を撤回することもできず、そのまま退職しました。この時、1ヶ月で5キロ痩せました(笑)

──それは辛かったですね。その後はどのような生活をしていたのでしょう。

派遣社員になり、さまざまな職場を経験しました。今の私からすれば当時の私は、怖いくらいキャリアに対する考えが甘すぎる若者。「いろんな職場を経験できるし、どこにでも引っ越すこともできて、すごく向いてる!」と派遣社員としての仕事を楽しんでいました。

デパートの香水売り場の派遣社員をやっていた時には、仲良くなった派遣仲間に誘われて、派遣契約の更新を止めてオーストラリアを旅したこともあります。宿も予約せずにバックパックひとつで旅行して、60人部屋に泊まって大変な思いをしたことも。この時の私にとって仕事は「積み上げていくもの」ではなく「お金を稼ぐ手段」だったのだと思います。

キャリア観を大きく変えたママ友との出会い

──ご結婚されたのは、いつのことなのでしょうか?

自由な派遣社員生活をしていた時に出会ったパートナーと結婚することになりました。この時25歳でした。その後25歳の時に第一子を産みました。その子の保育園のママ友が、私のキャリア観を変える大きなきっかけになりました。

──どのような方だったのでしょうか?

その方は商社に勤めてバリバリ働いている方で、パートナーの方は公務員でした。そのため、子どものお迎えには勤務時間が規則的なパートナーの方が来ていることもよくありましたし、その方がお迎えの時にはお子さんと一緒にカフェで夕飯を食べるようなライフスタイルを送っていました。

仕事が忙しくても、家で料理を作らなくても、その方からお子様への愛情が十分に伝わる、彼女の様子を近くで見ていて、私の仕事と子育ての関係に対する価値観が少しずつ変わっていったのかもしれません。

さらに、保育園の保護者の中でも若い私とも壁をつくらずとても仲良くしてくれて、次第に彼女の仕事や人生についての話をよく聞くようになりました。忘れられないのは、第二子についてのこんな話。

「パートナーが、2人目の子どもが欲しいって言うの。子どもを妊娠・出産するだけで女性のキャリアがどれだけ断絶されるかわかっているのかな!? 私のキャリアのことをどう思っているんだろう」

今ならこの気持ちがよくわかりますが、当時の私にとっては衝撃的な話でした。きっとこの頃からキャリアを少しずつ積み上げ、育んでいくことが自分のこの先の人生の選択肢に顔を出してきました。

子育ては楽しいけれど、1年があっという間にすぎていってしまう。その間にキャリアも積み上げられたら、どんなに素敵だろう。私の中にキャリアを積むことへの憧れが積もっていきました。

──その後、2人目のお子さまを出産されていますよね。

はい。第二子は29歳の時に出産しました。この時は派遣社員として働いていましたが、30歳を迎えようとした時に、もともと持っていたイメージよりも仕事の比重が大きくなっていることに気づきました。

「これは、ずっと働いてくっぽいな。もうすぐ30歳だし、どうしよう?」

「いつかお母さんになって仕事を辞める」というイメージが、どうやら私が選んだ人生とは違うことがわかってきたのです。派遣社員は、契約期間があるので、更新をすると次の契約終了までは転職をしづらい。それならばと、次の就職先を見つける前に派遣契約を終わらせました。

夢のようなスタートアップへの転職を叶える

──その後就職活動をされたのですね。

転職エージェントに登録して、これまでの経験や希望の職種を伝えましたが、なんとほとんどの会社が門前払い。面接や面談に漕ぎ着けることすらできませんでした。そこで、転職エージェントを女性のキャリアに特化したものに切り替えました。さらに、インターネットで見つけたITスタートアップの会社紹介イベントに足を運んでみたら、見たこともない世界が広がっていました。

それまでは、自転車で家と会社を往復するだけの日々を送っていましたから、恵比寿の格好いいIT企業のオフィスにいることが信じられないような気持ちでした。さらに、その会社の方はとてもカジュアルなコミュニケーションで、イベントではたくさんのケータリングやお酒が振舞われていました。仕事の様子を聞いてみると、MacBookを使って、リモートワークと出社を混ぜた自由な働き方。全てが新しくて「ここで働きたい!」と強く思いました。その思いが伝わったのか、無事その会社に就職することができ、現在に至ります。

──派遣社員としての仕事と違い、スタートアップの仕事は時間が伸びたり、ハードワークで大変ではありませんでしたか?

最初は時短で働き、その後フルタイムに変更しましたが大変さを感じることはありませんでした。それよりも、パソコンを持ち出して仕事ができることや、働く時間がフレキシブルなことで気持ちの負担が減ったと思います。派遣社員として働いていた時は、区切りの悪いところで切り上げなければならなかったり、それに伴う引継ぎにストレスを感じていました。

キャリア観を変える出会いを経て、夢のような職場に転職を叶えた武田さん。順風満帆なキャリアの再出発の後には、パートナーの失業という大きな壁が待ち受けていました。後編に続きます。

取材・文/ 出川 光

ポップアップ/別タブ

同じタブ

この記事をシェア

Cuepodのオンラインカウンセリングを試してみませんか?

関連記事

卵子凍結と不妊治療を経て、子どもを持たない人生の幸せに辿り着いた(後編)
卵子凍結と不妊治療を経て、子どもを持たない人生の幸せに辿り着いた(前編)
お母さんになりたかった私が、本当の自分になるまで(後編)
キャリアと家族の形。“普通”と違ったとしても、それでいい(後編)
「子どもなんていらない」と思っていた私が、採卵を終えて泣くまでのこと(後編)
同じカテゴリーの記事一覧

同じシリーズの連載記事

お母さんになりたかった私が、本当の自分になるまで(前編)
お母さんになりたかった私が、本当の自分になるまで(後編)
キャリアと家族の形。“普通”と違ったとしても、それでいい(後編)
キャリアと家族の形。“普通”と違ったとしても、それでいい(前編)
産院選びも育児も。起きたことを受け入れ、「普通な」方を選ぶのがライフデザインのコツ(後編)
産院選びも育児も。起きたことを受け入れ、「普通な」方を選ぶのがライフデザインのコツ(前編)
死を覚悟した妊娠経験がやりたいことの背中を押した(後編)
死を覚悟した妊娠経験がやりたいことの背中を押した(前編)