お母さんになりたかった私が、本当の自分になるまで(後編)

働く女性にとって、その壁は出産・育児だけとは限りません。自分自身のキャリア観の変化、子育てをしながらキャリアを積み上げる難しさ、そして、母親という役割と自分自身の境界線をどう持つか。ずっとお母さんになりたかったと話す女性に、そのキャリア観の変化と人生の切り開き方を聞きました。

お母さんになりたかった私が、本当の自分になるまで(後編)

最終更新日:
2026-02-18
公開日:
2026-02-18

いつ産むか。どう育てるか。働くかどうか。

女性にとって、子どもを持つことは、「持つかどうか」というひとつの決断ではありません。この連載では、子どもを持つ女性に、妊娠・出産によりキャリア、人生、やりたいこと、パートナーとの関係について何が変化したのか、どう決断したのかを描きます。

vol.4に登場いただくのは、現在IT企業で働く武田由美さん。2人の子どもを持つキャリアウーマンです。はじめは「お母さんになりたかった」ため、キャリアの優先順位が低かったという武田さん。前編ではどのようにキャリアに意義を見出し、自分らしく働く現在の仕事に至ったのかを聞きました。この後編では、パートナーの失業という大きな壁を乗り越えたこと、新たに得た視点についてお話を聞きます。

「お母さん」という皮がはがれて、その下にあった「自分」が現れた

──念願だったIT企業に勤めてみて、何か変化はありましたか。

同僚の働き方や考え方に大きな影響を受けました。例えば、同い年の女性が当たり前のように家事や子育てをパートナーと半々で分担していること。大きな企業の役員や社長を務めたこともある女性たちのキャリアの考え方や仕事との向き合い方。全てが新鮮で、私の心を動かしました。

彼女たちと毎日たわいもない話をしたり、仕事を一緒にするうちに、私の中で変化が起きました。それまでは「お母さん」であることが一番のアイデンティティだったのが崩れていったのです。まるで私の一番外にある「お母さん」という皮がはがれて、その下にあった「自分」が現れるような感覚でした。

それまでは「お母さん」でいなければどこか不安な気持ちがありました。しかし、それからは「自分」の中に「趣味」「仕事」と同じように「お母さん」という要素が含まれているのだという感覚に変わりました。

パートナーの失業に奮起。壁を乗り越えるのに使ったコーチング技術

──この会社で、積極的にキャリアを積み上げられています。このモチベーションはどこから?

この会社に入社して間もなくした頃に、コロナ禍がやってきました。その影響があったのか、飲食業界で働いていたパートナーが失業してしまったのです。さらに、そのことを私になかなか打ち明けることができず、子どもの保険証が使えなくなったことでその失業を知ることになりました。当時は別れを考えるくらいの怒りを覚えました。「私たちのことを路頭に迷わせないで!」と強い言葉を投げかけてしまったこともあります。

さらに、当時は情けないやら、恥ずかしいやらで同僚にもそのことを相談することができず、家庭内では夫婦の関係は破綻してしまいました。パートナーは子どもを一緒に育てるチームメイトのような存在になり、子育て以外の会話はおろか、目を合わせることもしませんでした。ただし、その再就職を応援する気持ちはもちろんありました。パートナーの再就職を応援するために、「やることリスト」を作ったりはしましたが、やさしい気持ちでそれを伝えることはできませんでした。

一時は家計が厳しくなり、「私がなんとかして稼がなければ」という気持ちも芽生えてきました。パートナーだって、いつ働けなくなるかわからない。私自身がキャリアを積み上げて、家庭を守っていかなければという危機感がモチベーションにつながったのです。仕事の幅が広がったり、キャリアを積み上げているように見えるとしたら、それが理由だと思います。

間もなくしてパートナーは無事に再就職ができました。その勤務時間が比較的決まっていることから、家庭内の役割も大きく変化しました。私が仕事で遅くなる時にはパートナーが子育てをし、持ち前の飲食のスキルを使って料理をします。私は自由に仕事をしたり、同僚と食事に行ったりするようになりました。

──この大変な時期をどのように乗り越えたのですか?

次第に相手のことを許せない自分でいることが辛くなってきたのです。そんな時、ちょうど仕事の面でもセルフコントロールの必要性を感じるタイミングが重なり、キャリアアップの一部としてコーチングを受けたりセルフコントロールについて学び始めたことが大きなきっかけになりました。自分と向き合うことで、自分自身の考えていることや状態を俯瞰できるようにもなり、またパートナーと対等な関係を結ぶことができるようになりました。

この時、小さなストレスとして積み上がったのは周囲からの悪意のないこんな言葉です。「旦那さんが子育てしてくれていいね」「料理上手な旦那さんでラッキーだね」「旦那さん、家事を手伝って偉いね」。前の私であれば「確かに、子育てや家事はお母さんの役割だから」とそれを受け入れてしまったかもしれません。しかし、今の職場でたくさんの視点を得た私は「どうして私が料理をしたら普通で、旦那さんだと偉いのかな?」「男女で役割の違いなんてないよ」と自分の意見をはっきりと言えるようになっていました。それは、ちょっと自分が誇らしく感じられた瞬間でもありました。

夜遅くまで同僚と食事をしている時に母親から電話がかかってきて「誰が子どもを見ているの?」と言われたこともあります。「パートナーだよ!」と伝えてもしっくりきていない様子だった母親は、その後私が仕事で出張すると聞いて「なんか格好いいね」と言っていました。私が変わったことで、周りの反応も捉え方も変わっていったのだと思います。

もちろん、「お母さん」の役割をやらなくて良いというわけではありません。変わらず子どもが大好きな私は、今でも「お母さん」の役割も楽しんでいます。けれど、子どもに私が楽しく働く姿を見せることも、彼らにとってきっといい影響を与えるはずだと考えています。

いつかお店を持ちたい。これからの人生に広がる夢

──現在のことを教えてください。これからのキャリアと人生についてどう考えていますか?

最近、夢ができたんですよ。それはお店を持つこと。色々な人が集まれる場所を自分で作れたらいいなと思うようになったのです。カフェもいいし、ポップアップショップができる場所でもいいな。大好きな職場で出会った人がふらっと訪ねてこれる場所だったらいいな。夢は広がるばかりです。これまで思い切って次のキャリアに手を伸ばしそれを実現してきたように、この夢もたくさんの人にどんどん伝えて叶えたいなと思っています。

取材・文/ 出川 光

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