「子どもなんていらない」と思っていた私が、採卵を終えて泣くまでのこと(後編)

卵子凍結を実際に経験した女性は、どんな時に、なぜ踏み切ったのでしょうか。予算のこと、パートナーのこと、気持ちの変化などについて聞きました。今回は、子どもを持つことを想像していなかった女性が卵子凍結を行い、その経験をどう振り返っているかを聞きました。

「子どもなんていらない」と思っていた私が、採卵を終えて泣くまでのこと(後編)

最終更新日:
2026-01-23
公開日:
2026-01-23

「卵子凍結」。言葉自体を耳にする機会が増えても、クリニックに行くのが怖かったり、どんな体験が待っているのかが想像できない人も多くいるはずです。この連載では、実際に卵子凍結をした女性からその経験を聞き、それによる気持ちやライフスタイルの変化、そしてその卵子により妊娠・出産に至ったのかどうかなどを聞きます。

vol.3に登場いただくのは、林美玲さん。中国で生まれ日本で育ち、インテリアの会社を経営しながら人生を謳歌しています。現在のところはパートナーはおらず、これから子どもを持つかどうかはまだ決めていません。前編では、そんな林さんが卵子凍結に踏み切った心境の変化や、ハードな仕事とのスケジュール調整、自己注射をなんとか乗り越えた採卵までの日々についてお話しを聞きました。続く後編では、採卵の経験やその結果の受け止め方、卵子凍結という経験がどのようなものだったのか、林さんが感じた日本と中国の卵子凍結への受け止め方の差などを聞きます。

採卵の結果、3個の卵子を凍結。思っていたより少なくても十分な数字

──全身麻酔で採卵を行い、目が覚めるまでの間は何時間くらいでしたか。

およそ2時間くらいだったと思います。全身麻酔が効いているので、時間の感覚はありませんでした。採卵が終わってすぐに麻酔が切れ目が覚めましたが、まだふらつきが残っていたため30分ほど休ませてもらってから医師の説明を受けました。

──採卵結果はどのようなものだったのでしょう。

卵巣の中には5個の卵胞が見えていたものの、子宮内膜症の影響もあって実際に採卵できたのは3個、それを凍結すると説明を受けました。5個くらい採卵できることを期待していたので「少ないな、残念だな」と思いました。しかし、卵子凍結はこの1回の採卵で終わらせるという決断に変わりはありませんでした。一度の卵子凍結のために必要な労力や自己注射などの慣れないことを行う気持ちの負担、そして体への負担が大きかったからです。

──この3個という数を、林さんはどのように受け止めましたか?

私は、卵子凍結だけが妊娠の方法ではないと考えています。確率は少ないかもしれないけれど、自然妊娠によって子どもを授かることもあるかもしれません。自然妊娠やタイミング法を試してみて、それでもダメならば凍結しておいた卵子を使う。その時のための保険だと考えれば、3個という数字は十分なものだと感じました。

──これらの卵子を何歳まで凍結しておこうと考えていますか?

私は今40歳ですが、今の仕事の状況では、43歳までは妊娠・出産する余裕がなさそうです。けれど、45歳を過ぎてからは子育てをする体力がないかもしれない。そのような理由から、凍結の更新は45歳までを考えています。43歳から45歳までの間に、素敵なパートナーに出会って、機会があればこの凍結した卵子を使いたいなと思っています。

卵子凍結はタブーじゃない。家族にも友達にも卵子凍結したことを伝えた

──卵子凍結をしたことを、家族や友人に話すことはありますか?

もちろん! 家族には、夕食の時の何気ない会話の中で「そういえば、卵子を凍結したよ」と話しました。リアクションは「へえ、そうなんだ」というあっさりしたもの。友人や同僚にも気兼ねなくどんどん話しています。私が卵子凍結を考え始めるきっかけになった幼馴染のお母さんにも、幼馴染本人にも卵子凍結をしたことをさらっと話しました。彼らのリアクションも「そうなんだ、子ども欲しいの〜?」といった軽いものでした。これは、中国のフランクなコミュニケーションの文化が影響しているかもしれません。

日本では、女性の体にまつわる生理現象や、妊娠・出産のプロセスについて隠しておく文化がありますよね。例えば、女性が生理中であることを職場で隠して、お手洗いにこっそりナプキンを持っていったり。一方中国では、異性の友達に対して「今生理でお腹が痛い」と伝えたとしても、それはごく自然なことです。卵子凍結の話題も、特別でもなければ隠す必要もない。センシティブな話題であるという感覚すらあまりありません。また、無痛分娩も日本よりも普及しており、妊娠・出産のプロセスに人の手をかけることに拒否感が少ないのだと思います。

それよりも、中国の友人は私の「卵子凍結をしたよ! しかも、東京都の助成で」というニュースに興味津々。中国では、既婚女性かつ不妊治療などの理由がある場合のみ卵子凍結が認められるので、「さすが日本だね、いいなあ」と言われることもあります。

──日本のご友人には、卵子凍結を勧めることもあるのでしょうか?

それはもう、たくさんの人に勧めています。特に周りの私よりも若い女性には、「今子どもがいらないと思っていても、その気持ちは変わるかもよ」と卵子凍結の話題を積極的に出すようにしています。リアクションは人それぞれで、全く気にせず聞き流す人もいれば、その話を真剣に受け止めて、卵子凍結をした友人も。中には、私の勧めをきっかけに「本当に子どもが欲しいのかどうか」を考えた結果、パートナーと自然妊娠で子どもを持った人もいます。

女性の強さを感じ、自分が成し遂げたことに感動して泣いた

──卵子凍結は、林さんにとってどのような経験だったと感じますか?

私はまだ妊娠も出産も経験しておらず、卵子凍結はそのプロセスの1割にも満たないと思いますが、それでも母親になる準備をする貴重な経験だったなと感じます。この経験を通して、女性の強さや命の重さ、尊さを感じることができました。将来子どもを持つのであれば、その命を大切にしなければいけないなと心から感じています。

採卵が終わって麻酔から目が覚めた時、私は泣いていました。これまで子どもを持つことを考えもしなかった私が、こんなにすごいことを成し遂げたなんて。お腹の底から力がみなぎってくるような感動を感じました。それまでの自分には想像もつかない、自分から卵子をとって凍結するという途方もない偉業を成し遂げられたことに、ひとつの使命を果たしたような気持ちになったのです。

それと同時に、自分が女性であることへの揺るぎない誇りを感じました。現代の女性は仕事をして、自分のケアもして、プライベートも充実させて、さらに子どもを持つのにリミットがあり、それを医療の力でつなぎとめようとすらする。そんな強い女性に生まれてきてよかったと感じました。この世界の女性全員を尊敬するようになった経験でした。

女性の気持ちは10年で変わる。将来の後悔をなくすために卵子凍結してみたら?

──卵子凍結を考えている女性や、まだ検討もしていない女性に対して、伝えたいことはありますか?

まず伝えたいのは「女性の気持ちは年齢によって変わる」ということです。35歳まで、子どもと5分以上時間を過ごせなかった私が「子どもを持つかも」と思って卵子凍結をするまで、10年もありませんでした。そんな風に反対の考えを持つ可能性もあるのだから、今子どもが欲しくなくても、将来考えを変えた時子どもを持つことができる可能性を残すため、卵子凍結はおすすめです。

もうひとつは「自分の見た目に騙されるな!」ということ。現代の女性は、その年齢に見えないくらい若々しい人が多いですよね。自分で言うのもなんですが、私も見た目が年齢よりも若いと言われることが多く、体が年齢相応に年を取っている感覚がありませんでした。クリニックで検査をして体の中は年齢相応だという現実を突きつけられた時、とてもショックだったのを覚えています。自分の見た目に騙されず、年齢なりの妊娠のしやすさと向き合うことが大切です。私は今振り返ると、もっと若い時に卵子凍結をしておけばよかったと思うばかりです。

助成金を使えば、金銭的な負担は軽減されます。凍結した卵子は絶対に使わなくてはいけないわけではないので、将来、パートナーと自然妊娠を目指すのもいい。タイミングは人それぞれですが、将来後悔をしないように自分に妊娠の可能性を残すため卵子凍結をしておくのは良い選択なのではないでしょうか。将来の自分の後悔をなくせるならば、卵子凍結にかかるお金は決して高いものではない、と私は思います。

取材・文 / 出川 光

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