不妊治療をはじめる時、ほとんどがその“初心者”です。この難しいはじめての経験に向き合っていると、クリニックでの治療でもなく、友達からの励ましでもなく「私の場合はこうだった」「前にこれを知っておけたら」という経験者のリアルなアドバイスが欲しい瞬間があるはずです。名前は仮名、顔も明かさないからこそ話せる、一足先に不妊治療をした方からのタイムカプセルのような経験談。全てが当てはまらなくても、不妊治療をはじめる前、あるいは真っ只中のひとつのガイドに役立ててください。
vol.4でご登場いただくのは、28歳から33歳まで不妊治療を行い、女の子と男の子を妊娠 ・出産したDさん。やんちゃ盛りの子どもたちに囲まれながら、賑やかな日々を過ごしています。
前編では、不妊治療をはじめたきっかけや、顕微授精へのステップアップ、検査結果との向き合い方についてお話しいただきました。後編では、採卵の結果と胚移植、そして妊娠・出産に至るまでの経緯と、その間のメンタルケアについてのお話を聞きます。
採卵から移植まで、緊張する「心」を和らげてくれた趣味の時間
顕微授精の採卵では、「成熟した卵子が取れるのだろうか」と不安を抱えていたDさん。結果は、どうだったのでしょうか。
「採卵の結果、17個の成熟卵を採取することができ、顕微授精を行いました。そのうち、9個の受精卵ができ、ガードナー分類(※)でグレード「4AA」の胚盤胞を凍結融解胚移植(※)しました。AMH値の低さから不安があったのですが、無事に受精卵ができて、とてもうれしかったです」
また、Dさんは凍結融解胚移植のため、採卵から胚移植までに期間が空きました。その間、どのように過ごされていたのでしょうか。
「移植前には、自身の子宮環境を少しでもよくしておきたくて、あらゆることを試していました。移植を行うのが冬の寒い時期だったので、体をしっかり温めようとヨモギ蒸しに通ってみたり、家でダンスを踊ってみたり、富士山の見える温泉宿で心身を癒したりして、とにかく体によさそうなこと、縁起がよさそうだなと思うことをいろいろとやっていました。
なかでも、毎年12月に開催される1万人の合唱コンサートに参加できたことは、不妊治療中のよい気分転換になりました。週に1回レッスンに通い、大きな声で歌って練習していると程よく気が紛れ、ストレスを発散することができました。不妊治療ばかりに気を取られてしまうと、心も体も疲弊してしまうので、なにか趣味を見つけて違う世界に浸れる時間を持てたことはよかったなと思います」
※ガードナー分類では、胚盤胞の発育の進み具合と形態(細胞の見え方)を数字とアルファベットで評価する方法。数字は胚盤胞の発達状態、1つ目のアルファベットは赤ちゃんになる部分(内部細胞塊)の形態、2つ目のアルファベットは胎盤になる部分(栄養外胚葉)の形態を表す。一般的に、形態評価として良好、とされるグレードがありますが、評価は施設差もあり、グレードだけで妊娠・出産が決まるわけではない。
※凍結融解胚移植は、受精卵(胚)を一度凍結保存し、別の周期に融解して子宮に移植する方法。採卵周期と移植周期を分けるため、体の状態や子宮内膜の条件を整えやすい場合がある。
★不妊治療中には、程よく気分転換するのがおすすめ。気が紛れるような趣味の時間を作れてよかった。
1人目を妊娠・出産後、2人目の不妊治療で感じた変化
胚移植後、無事に受精卵が着床し、Dさんは妊娠・出産へと至ります。妊娠が確認できたときは、どのようなお気持ちだったのでしょうか。
「病院で妊娠を確認できたときは、その場で踊り出したいくらいうれしかったです。一緒に不妊治療に取り組んでくれたパートナーも、妊娠の知らせを聞いてとても喜んでくれました。
また、私が通っていた不妊治療専門クリニックでは、妊娠が確認できたときに、医師から可愛らしいお人形がプレゼントされたんです。『おめでとう』というお祝いの言葉とともに人形を手渡されたときは、感動しました。その人形は、私にとって一生の宝物です」

初めての妊娠に喜びを感じながらも、妊娠初期にはいろいろと気になる点も多かったと語るDさん。印象的だった出来事として、音楽ライブへの参加がありました。
「妊娠して3ヶ月が経ったころに、大好きなアーティストの音楽ライブに行ったのですが、あまりの音の大きさに『お腹の赤ちゃんに影響があったらどうしよう』と怖くなってしまい、途中退出してしまったんです。そのほかにも、食べるものを気にしたり、過度な運動は控えたりするなど、今思えばかなり神経質になっていたように思います。
安定期に入ってからは気持ちも落ち着いて、少しずつ妊娠生活を楽しめるようになりました。性別がわかったときはとてもうれしくて、その足で服やおもちゃを買いに行きました。不安も多くありましたが、妊娠を待ち望んでいた分、子どもにまつわるなにもかもが新鮮でうれしかったです」
その後、Dさんは第一子を出産。そして、2年後に再び不妊治療を行い、第二子を妊娠・出産しました。「子どもは2人欲しい」と、あらかじめ計画は立てていたものの、1人目と2人目の不妊治療では少しばかり変化があったようです。
「上の子が生まれてからの1年間は育児に専念し、その後、2人目を妊娠・出産できたらと考えていました。自然妊娠できたらそれが一番よいなと思い、1年間は病院には通わずパートナーと頑張ってみたのですが、やはり妊娠には至らなかったため、再び不妊治療を行うことに決めました。
2人目の不妊治療では、残り8個の凍結卵からグレード「4AB」の胚盤胞を融解して胚移植することに。採卵は行わず移植のみだったので、1人目のときよりも気持ちはだいぶ楽でした。
ただ、上の子がいる状態での通院や妊娠・出産は、想像していた以上に大変でした。不妊治療専門クリニックには、さまざまな思いを抱えた人がいます。私が子どもを連れて通院することで、周りの人たちに辛い思いをさせてはならないと思い、一時保育を使うなど工夫して通っていました。また、子育てをしながらの妊娠・出産は体力的に厳しく、つわりに耐えながら上の子の育児にあたり、1人目のように妊娠期間を楽しむ余裕は一切ありませんでした。気がつけば臨月を迎え、2人目を出産しました」
★2人目の不妊治療では、採卵は行わず凍結していた胚の移植だけだったので、気持ちが楽だった。
★子どもがいる状態での通院は、周りの人たちに心配りをして一時保育を利用するなど工夫していた。
★子育てをしながらの妊娠・出産は想像以上に大変だった。
不妊治療を経て気がついた、人との距離感と「心」の持ち方

Dさんは二度の不妊治療を経て、女の子と男の子を妊娠・出産しました。子どもたちは現在、小学生。時々けんかをしながらも、姉弟は仲良く健やかに過ごしています。
最後に、Dさんに不妊治療全体を振り返って、「不妊治療に取り組む人たちへ伝えたいこと」を聞きました。
「不妊治療中に抱える悩みのひとつに、人との関係性があるかと思います。私自身、不妊治療中には妊娠・出産した友達と会うのが辛く、気持ちが落ち込んでいたときは年賀状で子どもの写真を見るのも辛かったです。仲の良かった友達からの何気ない一言で傷つき、『もう縁を切る!』とすら考えたこともありました。そして何より、そんなふうに考えてしまう自分に、『私はなんて性格が悪いのだろう』と自己嫌悪していました。
もし同じような悩みを抱えている人がいるなら、『どうか自分を責めないでほしい』と伝えたいです。不妊治療に限らず、人それぞれ人生にはさまざまな出来事があって、人との距離は都度近くなったり遠のいたりします。私には、不妊治療中に疎遠になってしまった友達もいましたが、不妊治療をしたからこそ出会えた友達もたくさんいました。同じ不妊治療専門クリニックに通う人たちとブログを介して出会い、ともに励まし合いながら不妊治療と向き合い、妊娠・出産を経験した後も未だに縁が続いています。また、一時は疎遠になってしまった友達とも、時間を置いて、お互いの状況が落ち着いてからは以前と同じように会って話をすることができています。
人間関係や検査結果など、不妊治療中はたくさんの悩みや不安があるかと思いますが、自分を責めず、むしろ自分の「心」を許しながら、心地よく取り組んでみてください」
★不妊治療中は、自分の「心」の平穏を大切にしてほしい。
取材/ 出川 光 文/日比 佳代子








