職場やパートナーに支えられ、「みんなで」歩んだ不妊治療の道のり(前編)

不妊治療を始める前の、“プレ妊活”状態で知っておきたかったこと。33歳で結婚し、はじめは仕事と両立しながら自然妊娠を目指した女性に、その後の不妊治療の実際の体験について聞きました。

職場やパートナーに支えられ、「みんなで」歩んだ不妊治療の道のり(前編)

最終更新日:
2026-03-16
公開日:
2026-03-16

不妊治療をはじめる時、ほとんどがその“初心者”です。この難しいはじめての経験に向き合っていると、クリニックでの治療でもなく、友達からの励ましでもなく「私の場合はこうだった」「前にこれを知っていることができたら」という経験者のリアルなアドバイスが欲しい瞬間があるはずです。名前は仮名、顔も明かさないからこそ話せる、一足先に不妊治療をした方からのタイムカプセルのような経験談。全てが当てはまらなくても、不妊治療をはじめる前、あるいは真っ只中のひとつのガイドに役立ててください。

vol.5でご登場いただくのは、34歳から36歳まで不妊治療を行い、女の子を妊娠 ・出産したEさん。仕事や育児にひたむきに取り組む誠実な女性です。前編では、アプリを使った妊活や、不妊治療中の検査と手術、そして、仕事と不妊治療の両立についてお話いただきます。

時間が経つにつれわかってきた、妊娠の難しさ

仕事を頑張りたい気持ちが強く、結婚や妊娠・出産は「なるようになるだろう」と考えていたEさん。遠距離恋愛を乗り越え、長くお付き合いしてきたパートナーと33歳で結婚しました。

「結婚してようやく妊娠や出産を意識しはじめたものの、パートナーと相談のうえ、『1年間は夫婦の時間を大事にしよう』と決めました。私はそれまで婦人科の病気で悩むことがなかったので、『子どもはすぐできるだろう』と、どこか楽観視していました。

夫婦共働きで仕事が忙しく、あっという間に1年は過ぎ、まずはアプリを使った妊活を試してみることに。基礎体温をつけながら排卵日の予測機能を参考に、パートナーにも協力を仰いで妊活をはじめました。

しかし、仕事の異動やそれに伴う引越しで環境が変わり、日々の生活をこなすのに精一杯で妊活どころではなくなってしまったのです。疲労から生理不順になり、さらに1年が経っても妊娠には至らず、次第に『自然妊娠は難しいのかもしれない』という思いが強くなっていきました」

本格的に不妊治療をはじめるべきか悩んでいたEさん。そのとき、久しぶりに集まった大学の友人から不妊治療の話を聞きました。

「年下の友人は、妊娠の報告とあわせて不妊治療していたことを話してくれました。病院選びの苦労や治療内容など具体的な体験談を聞くことができて、不妊治療に対するイメージが湧きました。

また、友人が話してくれたおかげで、私も周囲に初めて妊活の悩みを打ち明けることができました。『悩んでいるなら、一度病院に行ってみるといいよ』と、友人からアドバイスを受け、その日のうちに病院を探し、診察予約を取りました。

不妊治療をはじめる前の私は、まさかここまで妊娠が難しいことだとは知らず、もう少し計画性を持って取り組めていたらよかったなと思います」

★不妊治療の経験者である友人から話を聞いて、具体的なイメージが湧いた。

★妊活で少しでも悩みがあるなら、一度病院に行ってみるのもおすすめ。

★「子どもはすぐにできるだろう」と楽観的に考えてしまっていたので、きちんと計画を立てて不妊治療に臨めたらよかった。

仕事と不妊治療の両立に大切な「職場の理解」

友人からのアドバイスを参考に、Eさんはすぐに自宅近くの不妊治療専門クリニックを予約。パートナーと共に検体検査を受けました。

「私は超音波検査やAMH検査(ホルモン検査)を、パートナーは精液検査を受けたところ、夫婦ともに異常は見つからず、まずはタイミング法を試してみることになりました。仕事が忙しく妊活が難しいことを医師に伝えたところ、シリンジ法(※)も選択肢として案内されました。キットを持ち帰り自宅で実施しましたが、妊娠には至らなかったため、さらに詳しい検査をすることになりました」

タイミング法を試した後に、卵管造影検査を受けたEさん。その結果、卵管閉塞の可能性と子宮内にポリープがあることが判明しました。

「卵管造影検査をする際に、私は強い痛みを感じました(痛みには個人差があります)。検査の結果、子宮ポリープが見つかり、同時に卵管閉塞の可能性があると医師から説明され、『まずは大学病院で子宮ポリープの手術をしましょう』と紹介状を渡されました。

私はこれまで怪我も病気もしたことがなかったので、不妊治療をはじめた矢先に次々と問題が起き、大きなショックを受けました。同時に、多忙な仕事と不妊治療の両立に限界を感じ、どちらを優先したいのか、改めて自分の人生を見つめ直しました。パートナーにも相談をしたところ、『心身に支障をきたすくらいなら、仕事を辞めて不妊治療に専念していいと思う』と言われ、退職を考えはじめました」

Eさんは、自身が不妊治療していることを職場では公言していませんでした。検査結果から、上司に初めて不妊治療の悩みや退職を検討していることを伝えます。

「当時の上司もパートナーと不妊治療に取り組んだ経験があったようで、『不妊治療を優先していいし、仕事も調整できるように協力する。不妊治療にはお金がかかるから、もう少し様子を見て、それでも両立が難しいと感じれば、そのときに退職すればいい』と、提案してくださいました。その後に異動してきた新任の上司も、『私も不妊に悩んだ時期があるから、あなたの気持ちは痛いほどわかる』と、涙ながらに話を聞いてくださいました。

そのころの私は、なかなか妊娠できない不安からひとりで思い詰め、職場では誰にも何も相談できず、孤独を感じていました。しかし、上司への相談を機に、職場にも不妊治療の経験者がいることや、会社からサポートを得られることがわかり、だんだんと孤独感が和らいでいきました。

職場の皆さんが業務面でもメンタル面でも支えてくださり、仕事を続けながら、不妊治療から妊娠・出産に至るまで無理をせずに過ごせました」

※シリンジ法とは、針のない専用の注射器(シリンジ)を用いて精液を採取し、女性の腟内に直接精液を注入する方法。性行為を行わずに、自宅でできる妊活方法のひとつ。

★仕事と不妊治療の両立に限界を感じ、改めて自分の人生を見つめ直した。

★不妊による不安から職場で孤独を感じていたが、上司への相談をきっかけに職場の理解を得られ、少しずつ孤独感が解消されていった。

思うようにいかない苦しさに希望をくれた、パートナーと医師の言葉

その後、Eさんは大学病院で子宮ポリープの切除治療を行い、2回目の卵管造影検査を受けることに。繰り返す検査や手術によって思うように不妊治療が進まず、Eさんは焦りや不安を覚えます。

「子宮ポリープは子宮鏡手術で切除が可能で、処置自体は日帰りで行えるとのことでした。しかし、大学病院は予約が取りづらく、予約が取れたとしても1〜2ヶ月先。どんどん時間が経ってしまい、焦りを感じていました。

無事に手術を終え、再び卵管造影検査を行いましたが、術後も卵管閉塞の疑いは消えず、今度はMRIでの精密検査を実施。そして、私の子宮は『単角子宮』(※)だと判明しました。

生まれて初めて聞く病名に不安になり、ネットでいろいろと調べてみたのですが、流産や早産のリスクが高い傾向にあるなどネガティブな情報ばかりが目についてしまって…。『私は妊娠できないんだ』と思い込み、ずっとそばで支えてくれているパートナーにも申し訳ない気持ちでいっぱいになって、不妊治療中で初めて泣きました」

自身の身体に問題を抱えていると知ったEさんは、妊娠への希望を見失い涙を流します。そんなとき、心の支えとなったのは、パートナーと医師からの励ましの言葉でした。

「パートナーは、単角子宮だとわかって落ち込む私に、『不妊治療を進めてみないとわからないよ』『たとえその結果、もし子どもができなかったとしても大丈夫だよ』と、ずっと寄り添い続けてくれました。

また、大学病院の医師からは、ぽつりと『妊娠できると思いますよ』とお話がありました。不確定な要素が多いなか、そんなふうに患者に声をかけるには相当な勇気と責任が必要だと思います。それでも、医師が『妊娠できると思いますよ』と言ってくれたことで、『自分が思っているより悪い状況ではないのかもしれない』『リスクはあるかもしれないけれど、やれるだけ頑張ってみよう』と気持ちを切り替え、続く不妊治療に前向きになることができました」

※単角子宮とは、生まれつき子宮の形が通常とは異なる子宮奇形の一種。子宮が小さめで子宮の内腔(妊娠して赤ちゃんが育つ場所)が狭いことが多く、流産や早産のリスクが高い傾向にあるとされるが、妊娠・出産が不可能というわけではない。

★自分の状態を知りたくてネットで調べた結果、ネガティブな情報に振り回され、悪いほうばかりに捉えてしまっていた。

★パートナーや医師からの励ましの言葉を信じ、不妊治療に前向きになれた。

職場やパートナーに支えられながら、不妊治療を進めるEさん。思いもよらない検査結果や手術に心身を苛まれながらも、自らを奮い立たせて不妊治療と向き合います。後編では、治療方針の決定と体外受精の実施、その後の妊娠期間から出産までのお話を伺います。

取材/ 出川 光 文/日比 佳代子

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