不妊治療をはじめる時、ほとんどがその“初心者”です。この難しいはじめての経験に向き合っていると、クリニックでの治療でもなく、友達からの励ましでもなく「私の場合はこうだった」「前にこれを知っていることができたら」という経験者のリアルなアドバイスが欲しい瞬間があるはずです。名前は仮名、顔も明かさないからこそ話せる、一足先に不妊治療をした方からのタイムカプセルのような経験談。全てが当てはまらなくても、不妊治療をはじめる前、あるいは真っ只中のひとつのガイドに役立ててください。
vol.2でご登場いただくのは、31歳から32歳まで不妊治療を行い、その治療によって女の子を妊娠 ・出産したBさん。新卒以来、仕事を続けてきたはつらつとした女性です。前編では、タイミング法から始めた不妊治療への取り組み、パートナーを巻き込む上での工夫、そして人工受精にステップアップするまでについてお話しいただきました。後編では、体外受精を開始してから妊娠・出産に至るまでのお話を聞きます。
※本記事には流産に関する記述が含まれます。
初めての採卵で訪れた大きな気持ちの変化。治療は「不自然」なことではなく「後押し」なんだ
それまでのタイミング法、人工授精では妊娠に至らなかったBさん。体外受精を始めるにあたってもう一度クリニックを変更しました。不妊治療を始めてから1年10か月が経った時のことでした。
「最初の検査から時間が経っていたので、ひと通りの検査をもう一度行いました。最初のハードルになったのは、体外授精をするために行う採卵の準備のために行う自己注射です。
自分で自分に針を刺すという経験がなかったので、とても抵抗がありました。お腹に針を刺す時にどの深さまで刺していいのかも全くわからなくて。けれど、2、3回注射をするうちに慣れてきました。
その後クリニックでも注射を打ち、採卵の日を待ちました。この時、「少し頭が重いな」と感じることもありましたが、仕事をしていたので気を紛らわすことができました」
そして迎えた採卵の日。午前休を取ってクリニックを訪れました。
「初めての採卵ということもあり、痛みが心配で全身麻酔で採卵をしてもらいました。手術着に着替え、準備をし、手術室に入ってからは記憶がありません。再び目を開けた時には手術前と同じ場所に居て、採卵の結果を教えてもらいました。

採卵の結果は、12個。医師に勧められるままに採卵できたうち6個を、ふりかけ方式と呼ばれる通常体外受精、残りの6個のうち成熟卵4個を顕微授精にしました。その結果、顕微授精を行なったうちの1個が受精卵になりました」
初めての採卵をきっかけに、それまで「なるべく自然に妊娠したい」という気持ちを抱いていたBさんに、変化が訪れます。
「結果を医師に説明してもらった時に、『顕微授精でもすべてが受精卵になれるわけではない』ということを知りました。それまで、人工的な処置を行うのだから卵子や精子の状態はあまり関係ないと思っていたけれど、治療は受精の後押しをしているのであって、卵子や精子の状態や、母体のストレス、外部要因が結果に関係するのだと考えるようになりました。すると、顕微授精が不自然なことだという先入観がみるみるうちになくなったのです。当時はより自分が自然だと感じられる状態を求めて治療を選択してきましたが、顕微授精も受精の後押しだと気づいたことをきっかけに全ての卵子を顕微授精にしても良かったくらいだなと振り返っています」
★採卵のために行う自己注射は不安だったが、回数を重ねることで慣れることができた。
★採卵前の注射で頭の重さを感じたが、仕事のおかげで気が紛れた。
★なるべく自然に妊娠することにこだわりがあったが、顕微授精も受精するための後押しでしかなく、妊娠の仕方の一つだと思えるように。
※なお、体外受精(いわゆる「ふりかけ法」)と顕微授精にはそれぞれメリット・デメリットがあり、どちらが適しているかは、卵子や精子の状態、これまでの受精結果などによって異なります。Bさんの「全部顕微授精でもよかった」という感想は、あくまでご自身の経過を振り返った個人的な思いであり、すべての方に顕微授精が最適という意味ではありません。治療方法の選択は、検査結果や背景を踏まえて主治医と相談しながら決めていくことが大切です。
妊娠を継続するのは簡単じゃない。流産の経験
1回目の採卵でできた受精卵を、胚盤胞移植したBさん。その後卵子の着床が確認できました。体を温めたり、毎日検査薬を買って状態を確認したりしていましたが、ある日検査薬に反応が出なくなり、クリニックを訪れました。
「検査薬に反応が出なくなったのである程度覚悟はしていましたが、クリニックで流産していると説明された時はショックでした。しかし、周りに何人か不妊治療をしている友人がいて、2回、3回と体外受精を行っているのを知っていたので、『保険適応が続くうちは』と治療を続けることを決めました。
受精の結果を説明された時に『顕微授精であっても、卵子の力と、精子の力と、治療の後押しが合わさって妊娠に至るんだ』と感じていたので、妊娠を継続するのは簡単じゃないんだな、仕方がないと諦めることができました」
★周りに複数回体外受精を行っている友人がいたおかげで、1度で諦めずに2回目の治療を決断することができた。
2回目の採卵で妊娠に。採卵時には自分の卵子を見る特別な経験も

2回目の採卵を決めたBさん。2回目は、その後に仕事があったため、部分麻酔で採卵を行いました。
「ズーンと重く響くような痛みはありましたが、耐えられる程度でした。1回目の時と違って意識があるので、モニターで医師が採卵の様子を説明してくれました。自分の卵子を見るのは初めてで、とても特別な経験ができて面白かったです。けれど、痛みを感じないわけではないので、やはり1回目の採卵は全身麻酔にしておいてよかったですね。2回目の採卵の結果は、18個。前回の経験から、できるだけ多くの個数を顕微授精にしたいと先生に相談し、3分の1をふりかけ方式、3分の2を顕微授精にしました。そのうち4個が受精卵になり評価は4AA、3AB、4BB、4BCとのことでした。
移植のタイミングは、お正月を挟んだため少しずらしたのを覚えています。お正月は家族とゆっくり過ごして、ゴルフ旅行も楽しみました」
その後行った胚移植による妊娠で、Bさんは出産に至ります。この時の妊娠生活のことをこう振り返ってくれました。
「妊娠を継続するために特別にしたことはありませんでした。それよりも、なるべくストレスを溜めないように生活していました。1回目に流産してしまった時は私も夫も仕事が忙しかったため、その反省を活かして落ち着いて穏やかに過ごすことを大切にしていました。直接それが妊娠の継続に影響したかはわかりませんが、無事に出産を迎えることができました」
★2回目の採卵は部分麻酔で行った。私にとっては、1回目は全身麻酔にしておいてよかった。
★なるべくストレスを溜めない生活が妊娠の継続に良かったように感じる。
今振り返ると、自然な形にこだわっていた時間が惜しい
現在、10ヶ月の子どもの母になったBさん。2年間の不妊治療を振り返りながら、こう話してくれました。
「子どもを見ていると、その可愛らしさとかけがえのなさは格別です。そう感じる理由のひとつには、不妊治療の末に授かったことも少なからずあると思います。
私たちが行ってきた不妊治療を振り返ると、なるべく自然な形にこだわっていた時間が少し惜しいなと感じます。2回目の不妊治療を行う時には、「自然」にこだわらずに治療していくつもりです。採卵、胚移植は、私の場合は妊娠に至るまでの時間が短かっただけでなく、スケジュールが立てやすい治療であることも後になってわかりました。
これを読んでいる不妊治療中の方や、不妊治療をしてもなかなか妊娠できず悩んでいた私に声をかけられるとしたら、『焦らないで、おおらかに治療をしてみて』と伝えたいです。治療がうまく進まなかったり、妊娠できない理由がわからないと焦ることもありますが、妊娠はほんの少しのことに結果が左右されるものだと思うからです。
そして、もし治療の他に熱中できる趣味や仕事があるならば、無理のない範囲で続けてみることをお勧めします。私の場合は仕事が、時に気を紛らわせ、時に支えになってくれたからです」
★不妊治療を振り返ると、「自然」にこだわりすぎなくてもよかったなと感じる。
★不妊治療がうまくいかなくても、焦らずおおらかに治療を進めてほしい。
★不妊治療中は、治療一辺倒になるのではなく、仕事や趣味を持つことも大切。私の場合はそれが支えになった。
取材・文/ 出川 光






