不妊治療をはじめる時、ほとんどがその“初心者”です。この難しいはじめての経験に向き合っていると、クリニックでの治療でもなく、友達からの励ましでもなく「私の場合はこうだった」「前にこれを知っていることができたら」という経験者のリアルなアドバイスが欲しい瞬間があるはずです。名前は仮名、顔も明かさないからこそ話せる、一足先に不妊治療をした方からのタイムカプセルのような経験談。全てが当てはまらなくても、不妊治療をはじめる前、あるいは真っ只中のひとつのガイドに役立ててください。
vol.4でご登場いただくのは、28歳から33歳まで不妊治療を行い、女の子と男の子を妊娠 ・出産したDさん。やんちゃ盛りの子どもたちに囲まれながら、賑やかな日々を過ごしています。
前編では、不妊治療をはじめたきっかけや、顕微授精へのステップアップ、検査結果との向き合い方についてお話いただきます。
上司の言葉をきっかけに、不妊治療の第一歩を踏み出せた

26歳で結婚したDさん。仕事をしながら、「20代のうちに1人目の子を産めたらいいな」と、なんとなくライフプランを立てていました。そんなDさんが不妊治療を意識しはじめたのは、上司からのアドバイスがきっかけでした。
「私が結婚した当時は今ほど不妊治療が一般的ではなく、検討の目安として、『子どもが欲しいと思ってから、2年間できなければ不妊治療へ』と言われていました。しかし、会社の上司からは、『不妊治療をするなら一日でも早いほうがいい』とアドバイスをいただいたのです。上司は不妊治療を経験しており、子どもを授かるまでに相当な苦労があったようで、度々その話をしていました。
結婚から2年が経ち、私とパートナーも子どもをつくろうと妊活をはじめましたが、半年経っても妊娠には至りませんでした。そこでパートナーに上司からの言葉を伝え、不妊治療をはじめることにしました」
Dさんは上司の言葉を胸に、不妊治療の第一歩を踏み出しました。Dさんが住んでいた街には、一般的な産婦人科と不妊治療専門(※)クリニックがあり、まずは産婦人科に行ってみることに。
「当時は不妊治療に関する知識がなく、なにも分からないまま、『とりあえず一般的な産婦人科に行けばよいのかな?』と考え、病院を選びました。不妊治療について医師に相談したところ、『まだ20代だから、タイミング法でいい』とお話があり、血液検査などの詳しい検査は受けないまま、しばらく通院しました。
一般的な産婦人科への通院とタイミング法を半年ほど続けましたが、やはり妊娠には至らず。医師に『次の治療へステップアップしたい』とお伝えしたところ、『まだ20代だから』と改めて強めに言われてしまい、この先生とは合わないのかもしれないなと感じて転院を決めました。
よく調べないままに病院を選んでしまったことは、かかったお金や時間を考えるともったいなかったなと思います。とはいえ、まずは不妊治療の第一歩を踏み出すことが大事です。もし不妊治療に対する不安や、敷居の高さを感じている人がいるならば、気負わず相談からはじめてみるのもよいと思います」
※この記事での一般的な産婦人科は妊娠・出産・婦人科疾患全般を幅広く診るクリニックを、不妊治療専門クリニックは妊娠を目的とした専門的な検査・高度治療に特化したクリニックを指します。
★年齢に関わらず、不妊治療をするなら一日でも早いほうがいい。
★よく調べないままに病院を選んでしまったことは、少し後悔が残る。医師と合わないと感じたら、転院を検討するのもよい。
★まずは不妊治療の一歩を踏み出すことが大事。気軽に相談から始めてみてほしい。
不妊治療専門クリニックに転院し、顕微治療にステップアップ
不妊治療を次なるステップに進めるため、Dさんは転院を決意しました。新たな病院は、どのように検討したのでしょうか。
「最初の病院での反省を活かし、今度はきちんと情報を集めてから転院先を探しました。特に参考になったのは、不妊治療をしている人のブログです。当時はブログ全盛期で、病院名で検索すると、その病院に通っている人たちが書いた記事が見つかり、病院や治療の様子を詳しく知ることができました。幸いにも自宅近くの不妊治療専門クリニックに通う人のブログを見つけ、医師の評判もよさそうだったので、そこへ通うことに決めました」
その後、不妊治療専門クリニックで一通りの初期検査を受けたDさん。今回はパートナーも検査を受けますが、両者ともに結果が芳しくなく、ショックを受けました。
「AMH検査(卵巣予備能検査)(※)の結果、私はAMH値が低く、一方パートナーは精液検査で精子の数が少ないことが判明しました。医師からは『閉経するのが早いかもしれない』と説明があり、ショックを受けると同時に焦りが生まれました」
検査の結果に深く落ち込んでしまったDさん。「お酒も飲まず、たばこも吸わなかったのに、どうして私が…」「もしかしたら、子どもができないかもしれない」と、次第に心が曇っていきます。そんなDさんを支えてくれたのは、お母さまでした。
「当時、関東と関西で離れて暮らしていた母が励ましに来てくれたんです。手料理を作って食べさせてくれて、一度病院にも付き添ってくれました。不妊治療をはじめたころは周りに相談できる相手がおらず、ひとりで思い悩んでいたので、母の存在はとても心強かったです」
お母さまの助けを借り、Dさんは気持ちを持ち直しました。そして、検査結果をふまえ、医師と不妊治療の方針を固めます。
「医師からは、『人工授精に進むこともできるが、1〜2回で結果が出なければ、早めに次のステップへ進んだほうがよい』と説明がありました。私たちの場合は検査結果と年齢、そして気持ちの面をふまえて、人工授精は行わず、すぐに顕微授精へステップアップすることにしました。検査の結果を見ながら治療内容について詳しくお話いただき、そのうえで、こちらの希望に添った方針を定めてくださり、改めて不妊治療専門クリニックを選んでよかったと感じました」
※AMH検査(卵巣予備能検査)は、卵巣に成長途中の卵子がどれだけあるのかを知るための血液検査。AMH値は年齢とある程度の関連はあるものの、個人差が非常に大きいとされる。また、AMH値は卵子の「数」を示す数値であり、AMH値が低い=妊娠率が低いというわけではない。
★不妊治療中の不安な気持ちはひとりで抱え込まず、医師や身近な人に気兼ねなく相談を。
★検査結果をふまえながら、希望に添った治療方針を決められたので、不妊治療専門クリニックを選んでよかった。
自分の「心」を第一優先に。
病院での長い待ち時間や検査結果との上手な向き合い方

顕微授精にステップアップしたDさんは、採卵に向けて、卵巣刺激を行い、複数の卵胞を育てる治療を進めました。
「排卵誘発剤を自己注射するか、病院に通って打ってもらうか、どちらかを選ぶことができました。一度、病院で自己注射を打たせてもらったのですが、なかなか思い切れなかったり痛みがあったりと、自分ではうまく打てなかったので、私は毎日通院して医師に注射を打ってもらうことにしました。
その時期は特に仕事との両立が大変で、毎日仕事が終わってから病院に通っていました。病院での待ち時間が長く、なにもしていないと気が滅入ってしまいそうだったので、私は本を持って行ったり好きな音楽を聴いたりしながら過ごしていました」
自分なりの過ごしやすい方法を見つけ、Dさんは通院を続けました。そして、いよいよ採卵当日を迎えます。
「採卵当日はものすごく緊張していました。そのうえ、病院側の都合により朝一で行うはずだったスケジュールが急きょ夕方に変更になり、ほぼ丸一日病院で待つことに。長い待ち時間の末ようやく採卵するも、処置のために受けた全身麻酔が体に合わず、採卵が終わった後に吐き気をもよおし、2時間くらい病院のベッドで寝かせてもらいました。
また、採卵までは同じように顕微治療をした人の経験談をネットで検索していたのですが、『成熟した卵子がひとつも取れなかった』など、ネガティブな情報ばかりが目についてしまい、私もダメかもしれないとマイナス思考に陥ってしまいました。
このままでは心身によくないと思い、『自分は自分』『なるようにしかならない』と気持ちを切り替え、採卵後はネットからの情報をシャットアウトしました。不妊治療について調べることはもちろん大切ですが、ネット上にはさまざまな情報があふれているので、自分の心を第一優先に、適度に情報を取り入れるのがよいと思います」
★病院の長い待ち時間は、自分なりの方法を見つけて心地よく過ごすのがおすすめ。
★不妊治療では、検査結果も治療も人それぞれ。ネット上の情報に偏らず、自分の心を大切にしながら適度に取り入れるのがよい。
早くから不妊治療を開始し、転院、顕微治療へとステップアップしたDさん。不安な気持ちを抱えながらも自分の心と丁寧に向き合い、一歩一歩進んで行きます。後編では、採卵の結果と胚移植、そして妊娠・出産に至るまで経緯と、その間のメンタルケアについてのお話を聞きます。
取材/ 出川 光 文/日比 佳代子








