「卵子凍結」。言葉自体を耳にする機会が増えても、クリニックに行くのが怖かったり、どんな体験が待っているのかが想像できない人も多くいるはずです。この連載では、実際に卵子凍結をした女性からその経験を聞き、それによる気持ちやライフスタイルの変化、そしてその卵子により妊娠・出産に至ったのかどうかなどを聞きます。
vol.2に登場いただくのは、現在5歳の子どもを持つ母親である、大野百合子さん。東京都内で子育てと仕事を両立し、パートナーと充実した毎日を送っています。はきはきとした口調と、着実にものごとを前に進める行動力が印象的な大野さん。前編では、第一子の出産と離婚、そして卵子凍結に踏み切るまでのお話を聞きました。後編では、採卵の経験や採卵結果をどう受け止めているかなどを伺います。
午前休を取って採卵、午後には仕事へ。採卵のスケジュール

──前編の取材では、採卵の日が近づくにつれ緊張を感じていたとお話しいただきました。実際の採卵はどのような経験でしたか?
午前休を取得して、クリニックに行きました。周りの友人から採卵がとても痛いという話を聞いていたので、内心かなり緊張していたのを覚えています。
採卵は局所麻酔と鎮静剤を使って行われました。そのため、採卵中はほとんど意識がなく、卵子をモニターで確認したりした記憶はありません。採卵が終わって、意識がはっきりしてから、医師から採卵結果の説明を受けました。
結果は、5個の採卵ができ、M2(※)というグレードとのこと。一般的には、およそ15%の妊娠確率だということでした。「まだ東京都の助成を使って採卵できる時間があるので、確実に妊娠を望む場合はまた採卵しに来てください」と言われ、その後採卵を続けるかどうかを持ち帰ることになりました。この時の私の頭の中は「もっと採卵するかどうか決めないとな。15%しかないのか」という気持ち。もっと採卵するか、ここで止めるかはすぐに決断することができませんでした。
午後からは、いつも通り仕事をしました。私の場合は体調が悪くなることもなく、「こんなものなのか」と拍子抜けしたような気持ちでした。
※M2とは、採卵された卵子の成熟度を示す分類で、「成熟卵(Metaphase II)」を意味します。 受精に最も適した段階の卵子で、一般的に胚培養へ進めることができる状態とされます。M2の卵子が多いほど妊娠につながる可能性が高まる傾向がありますが、成熟度はあくまで指標のひとつです。
妊娠の確率約15%をどう受け止めるか
──その後、さらに採卵を行うかどうかをどのように決めたのでしょうか。
私の中で、選択肢が2つに絞られてきました。1つは、この1回で採卵を終わらせること。「卵子凍結をしなければゼロに近くなる妊娠の可能性を、少しだけ上げた」と考えることもできるなと思いました。もう1つは、100%に近い妊娠確率を期待できる数まで採卵を行うこと。何事もはっきりさせたい性格の私は、この2つの選択肢の間で1週間ほど悩みました。
これを決めるのに、最も大きな影響を与えたのは現在5歳の子どもの存在です。2人目の子どもを持つということは、新しいパートナーとステップファミリーを築くということ。そこで1人目の子どもが仲間はずれのように感じるのではないかと心配でした。また、世界で一番大切な子どもが1人いるだけでも私は十分幸せ。2人目をどこまで望むのかが、この意思決定のポイントでした。
私が出した結論は、「この1回の採卵で、卵子凍結を終わらせる」。必ず2人目が欲しいのではないから、2人目を授かる確率を少しだけ上げられたので十分。その結果、子どもができてもできなくても良い。確実に2人目を授かれるだろう数の採卵を行うこと自体が、子どもが1人いるだけでも十分だという気持ちと矛盾すると考えて、この選択をしました。
また、採卵1回に必要な準備やスケジュール調整がとても大変だったことも影響しました。私の場合は採卵を金曜日に行ったのですが、医師がぎりぎりまで土曜日に行うかどうかで迷っていて。シングルマザーの私にとっては、平日になるのか土日になるのかが大きな違いでしたし、子育てをしながら通院したり自己注射をすることは負担が大きく「これを、100%に近い妊娠確率を期待できる数の採卵ができるまで行うのは難しい」と考えました。
東京都の助成を受けるための説明会で聞いた話によれば、凍結した卵子の90%以上は廃棄されているのだそうです。この5個の卵子を結局使わずに廃棄になってしまっても、それは普通のことだと受け止められそうですし、卵子を全て使って妊娠できなくても、「ちょっとでも確率を上げる努力をしたからオッケーだな」と思えたこともこの意思決定の後押しになりました。
──この「約15%の妊娠確率」を、大野さんはどのように受け止めているのでしょうか。
「いつか子どもが欲しくなった時のための保険」のような感覚です。それでいて、子どもができるかどうかを、自分以外の何かに任せられる数字。運を天に任せるとでも言いましょうか。自分以外の何かによって、授かるかどうかを決められるちょうど良い確率だなと感じています。
43歳までは迷わず凍結を更新するつもり。現在のライフスタイル

──現在の生活や考えていることについて教えてください。
ちょうどこの間、卵子凍結を更新するかどうかのお知らせを受け取りました。私は、「2人目を産むのなら、遅くて45歳まで」と決めているので、43歳までは迷わず更新するつもりでいます。現在は、新しいパートナーと出会い、離婚当初から一歩踏み出した生活を送っています。
最近では、子どもが「弟がほしいな」と言うようになりました。きっと妊娠するには相手が必要なことなんて知らずに言っているのだろうと思いますが、「ステップファミリーになったら、仲間はずれのような気持ちになってしまうのでは」という心配は杞憂だったのかもしれません。今は、目の前の愛する子どもと、パートナーを大切にしながら未来を描いている途中です。
──卵子凍結という経験を、今どのように振り返っていますか?
人生経験として、卵子凍結をやってみてよかったなと感じています。私の場合は、準備から採卵まで仕事に支障があるほどの体調不良に見舞われることもありませんでしたし、妊娠すること、子どもを持つことに改めて向き合って自分なりに深く考える機会にもなりました。
ただ、できるならもう少し若い時に採卵できたら良かったな、とは思います。私のように「いつか子どもを持ちたい」と考えていても20代から30代にかけて仕事に全力投球する人もいますから、社会や所属している企業の仕組みなどで、もう少し解決できたらいいんですけどね。
卵子凍結は、未来の自分へのギフト
──今、卵子凍結を迷っている人に伝えたいことはありますか?
私と同じように、離婚してシングルの女性に特に伝えたいことがあります。それは「離婚したからといって、子どもができる可能性がゼロになるわけじゃない」ということ。離婚する年齢によっては「もう子どもは諦めよう」と考える方がいるかもしれませんが、そんな必要はないと思います。
絶対に子どもが欲しくないのならその必要はありませんが、「“ワンチャン”、子ども欲しいかも」と思っているのなら卵子凍結を検討してみてほしい。次に素敵なパートナーに出会った時、子どもが欲しくなるかもしれないですから。
私にとって、卵子凍結はちょっと若い時の私からのタイムカプセル入りのプレゼントのようなもの。将来子どもが欲しくなった時のために、自分へのギフトとして卵子凍結を考えてみるのはどうでしょうか。
取材・文 / 出川 光








