いつ産むか。どう育てるか。働くかどうか。
女性にとって、子どもを持つことは、「持つかどうか」というひとつの決断ではありません。この連載では、子どもを持つ女性に、妊娠・出産によりキャリア、人生、やりたいこと、パートナーとの関係について何が変化したのか、どう決断したのかを描きます。
vol.2に登場いただくのは、都内で企業でパートタイムとして事務職を務める加藤由紀子さん。現在14歳と12歳の男の子の母である加藤さんに、二人の子どもを育てたライフデザインについて聞きました。
お金を稼いで、趣味に全力。自由なライフスタイルを楽しんでいた

──現在では二人の子どもがいる加藤さんですが、もともとどんな家族観を持っていましたか?
私には姉と弟がいて、男女どちらのきょうだいもいるのがなんとなく当たり前の環境で育ちました。その影響で、漠然と「いつかは結婚して子どもを産むだろうな」「(自分の家庭には)男の子と女の子どちらもいるだろうな」と思っていました。一方で、いつ結婚するかや、いつ子どもを持つかは深く考えたことがありませんでした。それよりも先に、そのタイミングが来たという感じです。
──パートナーの方との出会いを教えてください。
私は山に出かけるのが好きなんです。時間があれば登山をする生活をしていて、パートナーとはその趣味を通じて出会いました。最初は「山に行く時に車を出してくれるいい人」だと思っていましたが、いつの間にかパートナーになり、出会って1年ほどでプロポーズされました。プロポーズされた時にはびっくりしましたが、いつか結婚するならこういう人がいいなと思っていたので、自然な流れで結婚しました。
──結婚した時、子どもを持つことについては話し合いましたか?
いいえ、特に話し合いをしたことはありません。ブライダルチェックなども今のように身近ではなく、「子どもはいつかできるだろう」と当たり前のことのように思っていました。それよりも、カップルの延長のような感じで、二人とも山に出かけたり旅行をしたりするのに夢中で。お互い仕事の休みが取れてお金が貯まったら旅行に行くという気ままな生活をしていました。そんな時期が数年続きました。
──自由なライフスタイルを謳歌していたのですね。その頃はどんなお仕事をしていましたか?
新卒で大手携帯キャリアのショップスタッフに正社員として就職し、その仕事を続けていました。と言っても、仕事にこだわりはあまりありませんでした。就職先に選んだのも、最初に内定が出たからでしたし、その後はお金を稼ぐために働いていたというのが正直なところです。 今では、子どもができたらそんな自由な生活はできないということがわかりますが、この時はそれを想像することもなかったのです。
妊娠がわかった時、不安よりも楽しみの方が上回った
──子どもを持つことを意識し始めたのはいつ頃のことですか?
ちょうど30歳を過ぎた頃でしょうか。いつもお願いしている同年代の美容師さんが産休に入られると聞いて、子どもを持つことを急に身近に感じ始めました。「私たちもそろそろなのかな?」と、基礎体温をつけはじめました。
数ヶ月経った頃、なんだかいつもと体温が違うことに気づきました。生理のような出血もあり、市販の検査薬を使ってみると、妊娠反応が出ました。その後、産婦人科に行くと、妊娠していることがわかりました。
この時は、嬉しかったですね。とてもいいタイミングで妊娠できたのだと思います。もちろん、「この先どうなるのかな」というドキドキする気持ちを感じてはいましたが、子どもができたら、それもまた楽しそうだなというポジティブな気持ちのほうが上回っていました。
──それまでのライフスタイルが変わってしまうことへの不安などはなかったのでしょうか?
それが、全くなかったんですよ。まず、ライフスタイルが変わること自体を実感していませんでしたし、職場にも女性が多く、妊娠・出産する方も多かったので。それに、そういったことに不安を感じるタイプではないのかもしれません。
意思決定のコツは、起きたことを受け入れること

──妊娠中の生活や、産院選びについて教えてください。
妊娠中もそれまでと同じように仕事を続けていました。大手携帯キャリアだけあって、ショップの制服にもマタニティ用のものがあったんですよ、さすがですよね。同僚のみんなも体調を気遣ってくれて、お腹が大きくなってきてからは座ってできる仕事をさせてもらっていました。
産院は一番家から近いところを選びました。産婦人科で妊娠していることを告げられた時「産院はどこにしたいですか」と聞かれて、「産院って選べるんだ!」と驚いたほど、こだわりがなかったのです。出産方法にもさまざまなプランがありましたが、ここでも最もベーシックな「基本パック」を選びました。一人目を出産した後で、助産師さんに赤ちゃんを取り上げてもらう方法や、水中出産などがあることを知りましたが、なんだか遠い世界のことのようでした。
──ここまでのさまざまな意思決定の中には、多くの人が不安に思ったり、迷ったりするものもあったと思います。加藤さんは、とても自然体で意思決定をしていますよね。
ストレスのかかることや特別な方を選んだり、期待しすぎたりしないからかもしれません。起きたことをそのまま受け入れたり、「普通だな」と思う方を選んだりしてみると、なんだか「あたり」を引くことが多いんですよ。職場の仲間はとてもいい人ばかりでしたし、近くの産院も快適でした。
──一人目の妊娠中に大変だったことはありましたか?
そこまでありませんでしたが......つわりが食べると楽になるタイプで、気持ちが悪くなるので、朝起きてすぐに何か口に入れていたのを覚えています。それでも、ぎりぎりまで仕事をすることができました。
ただ、1度仕事で動きすぎてしまったのか、不正出血が続いたことがありました。慌てて産婦人科に行って、2、3日の安静を言い渡されたことがありました。その時ばかりは会社を休んで、全く動かず安静にしていました。大変だったことはそれくらいで、予定通り出産の1.5ヶ月前まで働き、その後産休・育休に入りました。
一人目の育休中に二人目を妊娠。キャリアに起きた変化
──一人目の出産について、教えてください。
「基本パック」を選んで出産したので、自然分娩でした。朝パートナーを見送ってすぐに破水した感覚があり、そのままタクシーで病院に行って入院になりました。陣痛に耐えながら夜を超え、1日半後くらいに無事出産しました。陣痛が長かったので、ちょっと辛い出産でした。
──出産後の生活はどんな風でしたか?
新生児はあまり手がかからないので、そこまで大変だと感じることはありませんでした。生活時間はめちゃくちゃでしたが、仕事がないのでなんとかなっていました。
驚いたのは、出産から1年程経過して、保育園を探している間に二人目を妊娠したことです。この時、まだ一人目の育休中でした。計画した妊娠ではなかったので「まさか」という感覚で、とても驚きました。
──二人目を出産することや、子育てに不安を感じませんでしたか?
うーん。不安な気持ちはゼロではありませんでしたが、それよりも子どもができたことの嬉しさの方が優っていました。この時、まだ一人目が1歳くらい。まだ一番大変な時期を迎えていなかったからだと思います。
──育休中に妊娠がわかったことで、仕事にはどんな変化がありましたか?
二人目の妊娠を上司に告げると、ちょうど上司のパートナーの方も二人目を妊娠したところだったようで。「二人も子育てをするのは大変だから、育児に専念したらどう? 育児は今しかできない、大切なことだから」(※)と言われました。それを受けて「じゃあ、辞めます!」と育休が明けるのを待たずに仕事を辞めることにしました。
──この時、仕事を続けたいという気持ちや、悔しさなどはありませんでしたか?
あまりありませんでしたね。それよりも、初めての育児が大変すぎて、一人目を保育園に預けて復職することの方がイメージがつきませんでした。パートナーも一緒に育児をしてくれましたが、それでも仕事と両立するのは大変だなと感じていたのです。
(※)男女雇用機会均等法 第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)の観点から、妊娠・出産・育児などを理由に退職を促す行為は、同法に抵触する可能性があります。この記事では、実際の出来事を伝えるため、当時言われた言葉や状況を原文に近い形で記載しています。
多くの人が不安に思ったり、大変さを感じそうな場面を朗らかに振り返る加藤さん。その自然体の意思決定の背景には、起きたことを受け入れて、それをポジティブに捉える考え方がありました。後編では、二人目の出産後始まった「魔の二歳児」と新生児の子育てのこと、新たな仕事を始めて直面している更年期症状についてお話を聞きます。
取材・文:出川 光





